右と左の浮気事情 Ⅸ
リンはどこにもいなくて、
ついでとばかりにアカイトも消えて。
全部の部屋を調べて、鍵がかかっていたのはその部屋だけだった。
手にもった消火器を振りかざす。
もし、リンがアカイトといることを望んでいたら。
そんな問いが頭をよぎった。
どうするか。
答えは、一つ。
リンは、オレのものだ。
思いっきり力をこめて、その扉を殴った。
壊れて開いた扉の向こうにいたのは、
乱れた衣服でソファーに横たわり涙目でこちらを見るリンと、
露出したリンの下腹部に口を寄せたアカイトだった。
なにかを考える前に、オレはアカイトをリンの上から引きずり下ろして殴った。
床に転がったアカイトの上にまたがり、さらに拳をふりあげる。
二回ほど殴ったところで、アカイトがオレの手をつかんだ。
「まさか、鍵ぶっ壊して入ってくるとはね」
口の端から血を出しながらアカイトが笑う。
「鍵盗んどいた意味なくなっちまった」
確信犯であることを示すその言葉に、頭に血がのぼった。
もう一発殴ろうとしても、アカイトに捕まれた手は動かなかった。
苛立ち任せに叫ぶ。
「リンはオレのだって言ってるだろ!」
アカイトが笑う。
「はっ! 他の女と寝た奴が言うことかよ! なあリン!」
リン。
振り返って見ると、ソファーの上で小さくなっているリンがこっちを見ていた。
目尻で光る涙に、再び血が煮えたぎる。
「いつまでも乗ってんじゃねぇよ!」
はっとした時には、上下が逆転していた。
「好き勝手殴りやがって」
胸ぐらをつかまれる。
ああ、殴られるな。
そう思ったのに。
拳を上げたアカイトにリンがタックルするかの如く抱きついた。
当然、アカイトの体が倒れるわけはなかったが、
「お前なあ……」
上げた拳を下ろすのには十分だった。
「どけよ!」
その隙に足を使ってアカイトを押しのけた。
盛大にこけたアカイトを横目に床に転がっていたリンのヘッドフォンとスカーフを拾い上げ、リンの手を掴む。
「二度とリンに触んな!」
そう叫んで、オレはリンを連れてその部屋から飛び出した。
一人になったその部屋で、彼はため息をついた。
「痛ってぇ……」
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はくしゅ
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