You are all.



「あ、あ、あ」
　開いた口からは、もうその音しか出なかった。
　レン、とか、大好き、とか。
　言いたいことはたくさんあるのに、口は動いてくれない。
　後ろに回され、あなたに掴まれた指もその手を握りかえしたいのに、力がはいらなくて。
「あ、あ」
　ただただ、後ろからの揺さぶりに併せて声を出すしかない。
「っ！」
　どろりと、中にはき出された精を感じながら、あたしは意識を手放した。


　体が、だるい。
　控え室の柔らかいソファーは、眠気を誘った。
　眠気は体の不調さをあたしに思い知らせる。
　でもレコーディングはなんとか乗り切った。
　あとは、帰るだけなんだから、しっかりしないと。
「大丈夫、リンちゃん？」
　はっとすれば、ミク姉がこちらをのぞき込んでいた。
「なんか、今日、調子悪そうだけど」
「あ、と……」
　変にどもってしまってから、はっとする。
　なにをしてるんだろう。
　すぐに、笑って大丈夫、と言わなきゃだめなのに。
　わかっているのに、体がついてこない。
　どうしよう。
　ちゃんとしないと、レンに、レンに。

「昨日、ゲームでちょっと徹夜しちゃってさ」
　声が聞こえたと同時に、ソファーが沈んだ。
　腰に手を回され、その胸に引き寄せられる。
「オレもリンも寝不足なんだ」
　フォロー、されてしまった。
　迷惑をかけてる、と思ったら、さらに体は固まった。　
　これ以上、迷惑かけたくないのに。
「ね、リン？」
　耳元で聞こえる優しい声とは裏腹に、腰に刺さるちくりとした痛み。
「う、ん」
　唇の端をあげる。
　私はちゃんと笑えてるんだろうか。
　腰の痛みが強くなった、ってことは、きっとだめなんだろう。
　笑え、笑え、笑え！
　思った通りに顔の筋肉が動いてくれなくて、涙が出てきそうになった。
　お願い、笑ってよ…
　自分の体のことなのに、願った。
　それでも、あたしの顔は固まったまま。
　だめだ、きっと、もう、なんでもないじゃすまされない。

「ごめん、ちょっと……気持ち悪、い」
　レンの手を振り切って、部屋を飛び出した。

　トイレに入ったとたん、膝から力が抜けて崩れ落ちた。

　どうしよう。どうしよう。
　もう、絶対、絶対レンに、

　ばんっと、背後で大きな音がしたからふりかえれば、レンがいた。
　追ってきてくれるなんて思ってなかったから、驚いて目をみはったけど、レンの後ろから覗きこむミク姉の姿に、そっか、とも思う。
「大丈夫？　リン？」
　レンがすぐ隣に来た。手を伸ばせば届く距離。

　嫌われたくない。
　でも、もう嫌われただろうし。
　嫌われてもいいからレンに触れたい。

　そんな思いと葛藤して。
　あたしはミク姉がみてるのをいいことにレンにすがりついた。
「……気持ち悪いの？　大丈夫？」
　レンの顔は見えないけど、わずかな間がいらだっていることをあたしに伝える。
　あたしは何も答えず、レンの服を握りしめる。
　ふれたレンのぬくもりに、涙が出た。

　あなたに嫌われたくない。
　お願い、嫌わないで。
　そばにいさせて。
　ねえ、お願い。
　なんでもするから。




















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　はくしゅ