お姉ちゃん
「だめっ!」
突然、手にしていた携帯をとられた。
「……え」
僕と同じ顔をした彼女は、取り上げた携帯をまるで取らせまいとするかのように頭上高くに上げている。
意味がわからない。
ただ、普段するようにメールをうっていただけなのに。
「なに?」
返して、と手を伸ばせば、逃げられた。
「だめったらだめーっ!」
扉に向かって飛びだそうとする彼女を間一髪のところで捕まえて力一杯引けば、軽い体は簡単に僕の膝の上に落ちてきた。
腕の中に閉じ込めると彼女は握りた携帯を抱き抱えるように体をちぢこませる。
待って、そんなことしたら壊れる。
「携帯返して」
少し強めに言えば、彼女は涙目になってこっちを見た。
ああ、なんて扇情的な顔。
必死に険しい顔を保ちつつ、彼女の瞳をのぞき込む。
「返せ」
秒針が動くのに合わせて空色の目が潤んでいく。
背中がぞくりとした。
泣き出す一歩手前で、彼女は言った。
「レンはリンのなの」
携帯を返さない理由なのだと気づくのに数秒かかった。
「だからって、携帯没収なの?」
「だって、ファンの子とメールしてたんでしょ?
今日、メルアドもらってるの見たんだから」
たしかに今日、見ず知らずの女性から一方的にメルアドを押しつけられたのは事実。
彼女の行動の意味がわかると同時に、なんとも言えない感情がわき上がる。
ああ、なんて愛しい、僕の、
あんなメルアドとっくに捨てたし、メール相手はバカイトだったけど。
「携帯返してよ」
そう言えば、予想通り僕の彼女はショックを受けた顔をして、
「だめぇ!」
携帯を投げとばすことは、予想してなかった。
「あ゛っ!」
ちょ、携帯!
投げ飛ばされた携帯の行方を把握する前に体を倒された。
鈍い痛みが頭部に広がる。
「レンは、あたしのものだって自覚が足りなさすぎです」
涙目の彼女は上からこちらを睨み付ける。
「レンはリンのものだって今日は教えてやるんだから」
緊張からか、微かに震えている指が僕の頬を撫でる。
「浮気なんて、許さないんだから」
そんなことを言いながら近づいてくる唇に、僕は笑って口づけた。
「お手並み拝見するよ、お姉ちゃん」
ぽちっとおしていただけたら光栄です。
誤字とかも発見したら遠慮なく言ってやってください。
はくしゅ
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