その手を捕まえて
「ねえ」
にっこり、君は笑う。
「なんで、こんなことになってるの?」
そんな彼女の顔を、オレはまともに見れない。
リンの左手首をしっかり握っている自分の右手が憎らしい。
二人だけの空間に、リンのため息が響く。
「ねえ、そろそろ放してくれない?」
呆れきった声で、彼女が言った。
放したくないけど、放さなければいけない。
自分の中で葛藤しながらもゆっくり手を放せば、リンは手首をさすった。
「も~……すっごい痛かった」
手首を掴んだまま、リンを引っぱってこの場所まで猛ダッシュしてきたから、きっとすごく痛かっただろう。
「ごめん」
「ほんとにもー」
またため息が一つ、響いた。
その後に、短い笑い声も。
なんだと思って顔を上げれば、こちらを見て微笑むリンがいた。
三日月の形をした唇がくすりと笑う。
「ほんと、あたしのこと好きだよね~レンは」
かっと、顔が熱くなった。
「な、なんでっ」
「だって、あたしをここまでつれて来たのは、嫉妬でしょ~?」
図星を指され、顔がさらに熱くなる。
リンがファンらしい男達に囲まれていたのを見て、反射的に体が動いた。
気づいたら、リンの手首をきつく掴んだまま、だいぶ離れたこの部屋まで全力疾走していた。
熱い顔を隠したくて、深くうつむいた。
「あの程度なら、軽くあしらえたのにさ~」
リンが床に座るオレの隣に腰を落とした。
肩と肩がふれあう位置に。
「レンのやきもちやきー」
「だ、だれがやきもちやきだっ」
顔を上げた先に待っていたのは。
閉じたリンの目と、
唇に受けた柔らかい感触。
「早く部屋に戻ろ! こんなとこじゃねっころがったら背中痛いよっ」
リンの左手に、オレの右手首が捕まった。
ぽちっとおしていただけたら光栄です。
誤字とかも発見したら遠慮なく言ってやってください。
はくしゅ
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