箱の中は真っ暗だっただろうなあ、と。
加えて、
リンが先に目覚めて、まだ起きないレンの傍にいたら萌えだなあ、と。
二人の機械(プログラム?)っぽさを出したかったけど、挫折した感が。
続きからどうぞ。
誰かが、なにかを叫んでいた。
「……いよ……かぁっ!」
と同時に、
ごんっ!
と、鈍く低い音。
暗闇の中、スタンバイモードに入っていたオレは後頭部に加えられたその激しい痛みによって強制的に起動させられた。
「い゛……た、ぁ、ぐ……」
あまりの痛さに動けず、床の上をのたうちながら呻く。
今、絶対どこかの設定狂った!
「れ、ん?」
がんがんする頭を動かして声のしたほうを見ると、痛みのせいでぼやけた視界の中に黄色がいた。
ああ、頭が痛い原因はきっと、
「痛い、よ。リン」
リンに殴れるか蹴られるかしたんだ。
痛む頭を抱えながらゆっくり体を起こす。
「ちょっと容赦なさすぎ。打ち所悪かったら壊れてたよ、今の。
乱暴なんだよリンは。
仮にも女の子なんだからさあ、もうちょっとおしとやかにでき」
「レンがいつまでも起きないからだもん! レンのばかあほまぬけぇ!」
耳が壊れるかと思うほど大音量で叫ばれた。
音が大きすぎてハウリングまで起きてる。
頭がさらに痛くなり、オレは頭を抱えた。
罵りと共に拳がとんでくることを覚悟してた、のだが、いくら待ってもその気配は全くない。
不思議に思って顔をあげる。
その時、始めてオレは自分が今いるところを知った。
どこまでも、黒が続いていた。天井も壁も見えない。
床は自分の足から伝わる感覚でなんとか存在がわかるが、目視はできない。
果てのない黒の中で、自分の体とリンだけがぼうっと浮かび上がるように見える。
リンは少し離れたところにしゃがみこんでいた。
けれど、そこに至るまで、たった数十センチの空間が、底なしの沼に見えた。
怖い。
一歩踏み出した直後、黒の中を落ちていく自分の姿を想像する。
考えてしまったが最後、ぴくりとも動けなくなる。
リン。
心の中で名前を呼ぶ。
ほんの少し離れた場所でしゃがみこんでるリン。その肩は微かに揺れていて。
リンは、何時から起動していたんだろう。この闇を見てどうしたんだろう。
スタンバイのままの自分を見て、何を思っただろう。
一度目を閉じて考える。
目を開けた時、心から思った。
傍に、行きたい。
恐る恐る手を伸ばし、見えない床の存在を確かめながら進んでいく。
落ちていく姿を想像すれば体が震える。
すごく情けない格好だろうと思いながらも四つんばいに近い格好で歩を進める。
「リン」
やっとその肩に触れた時、思わず自分より一回り小さい体を抱きしめた。
肌に伝わるぬくもりがいとおしくて、まわした腕に力をこめる。
「リン」
うなじに顔を埋めた。
「レンの、バカ」
呟くように、リンが言った。
「一人で、怖、かったん、だから」
声は震えていて、腕には暖かいものが降ってきて。
「うん」
顔を見ようと視線をあげるが髪で肝心なところが見えない。
「いくら、呼んでも、叩いて、もっ、起き、なくてぇっ」
「ごめん」
「レンの、ばかぁっ」
ついに声をあげて泣き出したリンがいとおしくて、髪に唇を寄せる。
リンの鳴き声が止む気配はなく、どうしようかと苦笑していた時。
鈍く、何かが壊れるような不気味な音がその空間に響いた。
緊張で体が固くなる。
ゆっくり周りを見るが、辺りは相変わらず暗闇のままだ。
少し緩んだ腕の中で体を回したリンがシャツを掴んできた。
涙はとっくに止まっているリンを抱きしめる。
再び、不気味な音が響いた。
「レン」
身を寄せてくるリンを、暗闇を見つめたまま抱き直す。
「離さないから、離すな」
「うん」
なにを、とは言わない。
リンの手が背中にまわされる。
天が割れ、視界が変化したのは、そんな時。
突然黒の中に割り込んできた白に、目が眩んだ。
目を閉じ、腕に力をこめる。
離すものか、絶対。なにがあっても。
光の中で、そう思った。