右と左の浮気事情 Ⅵ
マスターとの練習が終わったその時、メールが来た。
「今日のご飯はミートソーススパゲッティだよっ!」
ミク姉からだった。
ご飯かあ。
くう、と鳴るお腹に手をあてる。
お腹は減った。
昨日の夜はほとんど食べず、今日は昼にクラブサンドを食べただけだ。
でも、夕食にはきっとレンもいる。
レンと会うのは……やだ。怖い。
でも、行かないでメイコ姉たちに心配かけるのもいやだ。
「どおしよ」
頭を抱えかけた時、もう一通メールがきた。
「レン今はいねぇから、さっさと来て食っちまえ」
言わずもがな、アカイトから。
レンがいないなら、行こうかな……アカイトもいるみたいだし。
そう思ってあたしはリビングに向かった。
レンに会わないように、廊下は角から先の様子を伺いながら、慎重に進む。
リビングは扉の隙間から中を伺った。
あたしと同じ黄色い髪は見当たらず、でも心配できょろきょろしていると、真っ赤な髪の男と目が合った。
来いよ。
そう言わんばかりに手招きされ、あたしはリビングに足を踏み入れた。
リンが、笑っていた。
スパゲッティを食べながら、ミートソースを口の端につけて、少しぎこちなくだけど、笑っていた。
最後に、リンの笑顔を見たのはいつだっただろう。
隣に座って、手を繋いで、キスをして、抱きしめたのは、
昨日のことのはずなのに、何日も前のことのような気がする。
リンに触れたかった。
抱きしめて、ごめんと言って、全部話して、許してもらいたい。
オレがどれだけリンのことが好きか、知って欲しい。
熱に浮かされたように、オレは少しだけ開いていた扉に手をかける。
その時、リンの肩に誰かの手が回った。
赤いラインの入った袖口。
そう認識する間に、同じものがもう1つ出てきて、リンの口元を拭った。
顔から表情が抜けていくのがわかった。
リンへの熱が燃え上がり、
オレの体を激しい嫉妬が動かす。
オレは、リビングの扉を乱暴に開け放った。
ぽちっとおしていただけたら光栄です
はくしゅ
PR