右と左の浮気事情 Ⅶ
こちらを見たリンは、目があうと瞬時に目を反らして俯いた。
こちらを見たアカイトは、目があうとにやっと挑発するように笑った。
オレの席に座り、リンの肩に手を回すアカイトをにらみつける。
ゆっくり歩を進めた。
「あ、あたしっ」
よろめきながらリンが椅子から立ち上がった。
「部屋戻る。ごちそうさま」
早口で言いリンはかけ足でテーブルを離れこちらに向かってきた。
何気なく、手が伸びた。
髪の一房にでも触れれば満足だったのに、
「やっ!」
リンはオレの手から大げさに身を引いた。
眉を寄せ、怯えた顔を向けられた。
逃げるリンの背中を呆然と見送った。
「はっ。逃げられてやんの」
嘲り笑うアカイトをにらみつける。
「リンはお前なんかに渡さない」
腹の底から声を出した。
「よく言うな。あんなことしてリンを傷つけたくせに」
「リンはオレのだ!」
ふっと笑ったアカイトが立ち上がり、オレの胸ぐらをつかんできた。
「お前、ちゃんと見てたんだろ? もうわかってんじゃねえの?」
間近でにらみあう。
「リンはもうオレのものだよ」
反射的に拳を振り上げた。
「ストップ! ストーップ!」
突然、後ろから羽交い締めにされて、アカイトから引き離された。
アカイトがカイト兄に抑えられる。
「何があったのよあんたたち!」
頭上からメイコ姉の声がした。
後頭部にあたる感触からも、オレはメイコ姉に捕まえられてるんだろう。
「別に? なんもねえよ」
にやっと笑ってアカイトが言う。
挑発されている。落ち着け。
一つ、大きく深呼吸をした。
「……なんでもないから、離して、メイコ姉」
「なんでもないって、あんた」
首を回して驚いた顔をしてるメイコ姉を見る。
「大丈夫だから、離して」
多少の間をおいて、メイコ姉の拘束が解かれた。
オレはそのままアカイトに背を向けた。
「逃げんの?」
後ろから嘲笑が聞こえた。
「リンはオレのものだ」
それだけ言って、オレはリビングから出た。
リンの後を追うために。
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はくしゅ
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