放したい手の行く先は
「あ、の、レンくん!」
ふるえる声に足を止めて振り向けば顔を真っ赤にしたリンが涙目でこっちを見つめていた。
「……なに?」
「あの、て、手を……はな、してくださ」
「却下」
放せと言われた彼女の手をさらに強く握って、再び歩き出した。
ずいぶん大きい抵抗を感じながら足を進める。
「れ、れれ、レンくん!」
「……それ」
立ち止まり、振り返るとリンが異様にびくついていた。
ああ、ちょっと温度のない声出しちゃったからかな。
「いい加減、くんつけるのやめない?」
ちょっと顔を近づけて迫ってみれば、リンの顔が赤から青にころころ変わった。
あ、おもしろい。
「おれたち、恋人、でしょ?」
多少の威圧を込めて言ったが、リンは「でも」とか「だって」を小さく繰り返している。
さらにリンに顔を近づけて言った。
「呼んで。ほら、『レン』!」
「れ……ん」
ああ、やっと言ってくれた、とにんまり笑い、顔を放したところで
「……
くん」
聞こえた。
ぴき、っと頬が引きつる。
「意地でも呼び捨てにしないつもり?」
顔をのぞき込むと、目をそらされた。
ため息が一つ口からこぼれる。
「わかった。行こう」
きびすを返して歩き出す。
と、後ろに流れていた腕をぐいっと引いた。
そのまま自分のポケットにつっこむ。
ひ っと息をのむ音が聞こえた。
「れ、れれれれれれれれんくん!」
「呼び捨てにしなかった罰」
目的地に到着するまで、その手は放してやらなかった。
はくしゅ
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