行ってらっしゃい
「う~」
服の端をつかみリンがうめく。
「リン、服のびるから」
出かける準備を完了させたレンがそう言うと、リンはおとなしく服から手を放した。
が、不満そうな顔で呟いた。
「なんでリンが一緒に行っちゃだめなの~」
昨日から何度も聞いた台詞に、レンがため息をつく。
「そういう仕事なんだから仕方ないだろ」
玄関に向かうレンの後ろを、リンがしょぼしょぼついて歩く。
靴を履いたレンは後ろからただよってくる暗いオーラにまた一つため息をつくと、振り返ってしょげている頭をぽんとたたいた。
「仕事終わったら、すぐ帰ってくるから」
はじかれたようにリンの顔があがる。
「絶対ね! 絶対だからね!」
「うん。絶対」
レンが笑うと、リンも笑った。
目の縁の涙をぬぐい、笑顔で一言。
「行ってらっしゃい」
外に出たレンは、早足で家から見えないところまで移動すると、はあ、と赤い顔を手でぬぐった。
「……仕事、行くか」
帰りにはなにか甘いものでも買ってこう、と一人つぶやいた。
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