衣替えの試練
「あつー!」
朝の通学路のど真ん中で少女が叫んだ。
「言うな。もっと熱くなるから……」
隣を歩く少年も額に汗を浮かべていた。
「服が重いー!!」
少女がなおも叫ぶ。
秋の初めにしては日光の強いその日、学校に向かう彼らが着ているのは冬服だ。
「なんでこんな生地の厚いやつ着てかなきゃいけないのよー!」
「昼の地獄が想像できて嫌だな……」
朝でこの気温なんだから……と少年が呟く。
彼の予想は的中し、昼間の教室は夏の如く熱くなった。
体育上がりで尚更熱く感じ、教室にいる男子生徒達は皆学ランを脱ぎ、窓を全開にして涼んでいた。
友人達と同じく、レンも上半身をTシャツ一枚にして、窓から入ってくる風を感じていた時だった。
がやがやと、廊下から女子生徒達が帰ってくる音を小耳に挟みながらも、窓から顔を出したままだったため、レンは知るのが遅れた。
まず、男子達のうれしそうなどよめきが聞こえた。
「レンただいま~」
リンの声はその次だった。
「おう、お疲れ」
そう良いながら首を回して背後を見たレンは、
固まった。
「何?」
首をかしげるリンは、
セーラー服を着てなかった。
正確には、
上半身は余計な肩紐を見せた、キャミソール一枚。
下半身は丈をこれでもか、というほど短くしたスカート。
だれかが口笛を吹いた。
「おまっ! ばか!」
とっさに傍にあった自分の学ランを掴み、リンに頭からかぶせた。
暴れるリンをつかみ、そのまま人目のない廊下までひきずって行く。
「なにやんて格好してんだよあほ!」
頭から学ランをはぎとり、リンはきっ、とレンを睨みつける。
「なによ! 熱いんだもんしょうがないでしょ!」
「しょうがなくねえ! ここ学校だぞなに考えてんだ!」
「暑いのっ! あんたたちだって学ラン脱いでるでしょ!」
「俺らは男だからいいんだよ! とにかく服着ろ!」
「やだ! あたしだけじゃないもん! みんなやってるもん!」
「みんなやっててもお前はだめだ!」
「なんで!」
「……他の男に見せたくないんだよ!」
一際大きい声が上がった。
驚きに目を丸くしていたリンが拗ねた顔をしてうつむく。
「でも、暑いんだもん」
「わかってる。けど、頼むから服着てくれ。俺も学ラン着るから」
本気で頼むレンにリンは唸る。
「……帰りにアイス」
「奢る。奢るから頼む!」
頭を下げるレンにリンはため息をひとつついた。
「わかった」
リンの答えにレンがほっと一息つく。
その唇を、リンのそれがかすめた。
「アイス絶対ね!」
間近で請われ、レンは笑った。
「二つぐらい、買ってやるよ」
夕暮れの公園に、汗だくの二人が並んでアイスを食べる姿があった。
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はくしゅ
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