右と左の浮気事情 Ⅳ
メイコ姉のクラブサンドは美味しくて、気づいたらあたしはそれを全部胃袋に入れてしまっていた。
「すげー食いっぷり」
隣にしゃがんでいるアカイトが笑う。
うるさい、といいかけたあたしは、突然迫ってきたアカイトの顔に驚いて身を引いた。
「なにすんの」
「やぼなこと聞くなよ」
にやっとアカイトが笑う。
「浮気なんだろ、俺ら。なら、それらしいことしねぇと」
尚も迫ってくるアカイトに、あたしはずりずりと後退する。
「別に、そういうことしなきゃいけないわけじゃ」
ない、と言う前に、アカイトが言った。
「あいつらだってしてんだぜ」
あいつら。
その言葉に、あたしは固まる。
あの二人のキスシーンが浮かんだ。
思考が止まる。
「リン、顔上げろ」
言われるままに顔が上がった。
唇が、近づいてくる。
ぴろん、と電子音が響いた。
数センチ先の口が舌打ちをする。
「呼び出しか」
マスターからの呼び出し音だった。
頷くと同時にアカイトが立ち上がった。
「ったく、空気読めよクソマスターが。行ってこい、待たせてもうぜーからな」
腕を掴まれ、立たせられた。
掴まれたまま廊下につれていかれる。
「……じゃあ、行ってきます」
言った直後、頬にキスされた。
「行ってこい」
にやっとアカイトが笑う。
あいつらだってやってる。
その言葉がもう一度頭に響いた。
すぐそばにあったマフラーを力一杯引く。
下がってきてもまだ高い位置にあるそれに、
触れるだけのキスをした。
「じゃあね」
そう言って彼女は走り去った。
「がんばれよ!」
彼は彼女の背中に向かって叫ぶ。
体を反転させて、気づいた。
廊下の端から呆然とこちらを見る彼の姿に。
その彼に向かってにやりと笑うと、彼はその場を去った。
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はくしゅ
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