右と左の浮気事情 Ⅴ
おぼつかない足取りで自分の部屋に帰り、ベッドに腰掛けて呆然としていると、彼女が現れた。
「ひどい顔ね」
会ったとたん、そう言われた。
「リンちゃんと話せなかった……だけじゃないわね。なにがあったの」
豊満な体が隣に腰を下ろす。
この体に、オレはどれだけ自分の中の一番どすぐろいものをはき出しただろう。
「……リンが、」
「リンちゃんが?」
見てからずっと頭から離れない光景を、口にする。
「リンが、キスしてた」
認めたくなくて、白昼夢だと思いたくて、でも現実で、頭を抱える。
「……誰と」
相手。
相手の男は。
無意識のうちに手に力が入る。
口にするのも嫌で、長い沈黙の後、絞り出すように言った。
「アカイト」
はあ、と無駄に色気を含んだため息がつかれた。
「どうしようもないわね……あのバカ」
ふと、頭をつかむ手に触られた。
「はげちゃうわよ」
自分の手を離して見ると確かに抜けた髪の毛がかなり手についていた。
「リンちゃんとは、話せたの?」
「会った……けど、顔合わせただけで、逃げられた。アカイトと、してたのは、その後」
あの光景をまた思いだし、拳を握りしめる。
「その時リンちゃんとは?」
「……リンはオレが見てたって気づいてない。アカイトは、気づいてた」
立ち去る直前のにやりとしたあいつの顔を思い出す。
今すぐ、あの顔をぐちゃぐちゃにしてやりたい。
胸ぐらつかみあげて、タコ殴りにしてやりたい。
キスをしたのがアカイトなら、その場でそうしてやった。
けど。
「リンからするなんて……オレどうしたらいいんだよ」
明らかにリンから唇を合わせていた。
なら、オレはもう何も言えない。
「まったく……一体何をリンちゃんに吹き込んでまるめこんだんだか」
ふう、とまたひとつ、ため息がつかれた。
「私から言ってあげてもいいわよ?」
小さい笑い声が聞こえた。
「レンちゃんにはちょっと困った性癖があって、私を抱いてたのはリンちゃんを傷つけたくなかったからだとか……私を抱きながらリンちゃんの名前を呼んでいたこととか」
からかうような言い方に、オレはばつが悪くて顔をしかめる。
「いい。自分で言う」
「その方がいいでしょうね」
にっこりと、彼女は笑った。
そして額にキスをひとつ落とされる。
「じゃあね。一ヶ月楽しかったわ」
「……ありがとう、いろいろと」
オレの中の一番汚い嫌なところを、彼女は黙って受け止めてくれた。
きっと、彼女がいなかったら、オレは自己嫌悪で壊れていただろう。
「大丈夫だから、自信持ってがんばってね、レンちゃん」
そう言って彼女は部屋から消えた。
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はくしゅ
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