つめさきにマニキュア Ⅱ
君があんまりに無邪気だから、
僕は時々、汚してしまいたくなる。
「終わり」
「わーい」
リンはオレンジに染め上がった両手を広げて満足そうに眺めている。
「乾くまで動くなよ」
「わかってますー」
拗ねたようにリンは言う。
オレはにやりと笑う。
「わかってるならいいんだ」
蓋を占めたマニキュアを床に転がし、オレはリンに近づく。真っ正面から、広げた腕の間に入った。
リンが首を傾げる。
でももう遅い。
「動いちゃ、だめだからね」
柔らかい唇にキスをする。
リンは抵抗することなく目を閉じた。
ああもう。この無防備さが、だめなんだって。
唇を合わせたまま、リンの頭と背中に手をまわす。軽く前に力をかけると薄い体はぱたんとあっけなく倒れた。
もう、逃がさない。
唇をこじ開け、舌をねじ込んだ。
とたんにリンの体が暴れだす。といっても、足を動かしても当たるものはないし、塗り立てのマニキュアを意識した手はぜんぜん力がはいってない。抵抗に成功しているのは頭だけだ。
「やぁ」
リンの口から鼻にかかった甘い声が出た。
あーあ。そんな声出しちゃって。
「手、動いちゃだめだってば」
そらされた顔をつかんでこっちを向かせる。
「口開けて。ほら」
唇を舐めあげ、再び唇をむさぼり始めた。
歯列をなぞり、縮こまる舌をなぶり、口内を犯す。
「れぇ……んぅ」
さっきから、発音しきれてない声が聞こえる。
このばか。あほ。
そろそろ止めなきゃと思いながらも手は進む。
リンの声がそれを増幅させる。
やばい。
手が、リンのスカーフに伸びた。微かな音を立ててそれは外れる。
やばい。
「リン……かわいいよ」
唇を離れ、顔が移動し始めた。
首筋に下を這わせる。
やばいってほんと、そろそろ、
「やめてよもお!」
突然横から手が一本伸びてきてオレの口を塞いだ。
予想してなかった出来事にオレが目を丸くさせていると、何を勘違いしたのかリンが叫んだ。
「右手はもう乾きました!」
あっけにとられているオレの下から抜け出すと、リンはべぇーっと下を出した。
「レンのばーかっ!」
ばたばたと部屋を出て行く足音を聞きながら、オレはその場に倒れ込んだ。
一人安堵のため息をこぼす。
やばかった……
手に当たるものがあった。掴み上げたそれはオレンジ色のスカーフ。
少し迷ってからそれの端に唇を寄せた。
「大好きだよ、リン」
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はくしゅ
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