枯れ落ち葉の紅の色 拾壱
触れてくる手が優しい。壊れモノを扱うように。
さっき言ったことを気にしているんだろうか。
ちょっと大げさに言ってみただけなんだけど。
鈴音、と呼ばれた。答える前に口を塞がれて。
首もとを中心に口づけを繰り返されて。
愛される、ということを久しぶりに思い出したら、
息が、出来なくなった。
「鈴音、鈴音、鈴音っ」
狂ったように名を連呼される。
同時に体を貫かれて、頭の先までしびれてく。
体に力が入らない、そのくせ、指先の力だけはあって、
広い背に回した手の指が背中の肌を掻くのを感じる。
「すまない。止まら、ないんだ」
言葉の通り、律動の速度が収まる気配はなくあたしの体は布団の上で揺れ続ける。
「鈴音、好きだ。鈴音」
鼻で笑い飛ばすことはもちろん、答えることすらできない。
背中をのぼり上がる甘いしびれにとらわれて、声を出さないようにするので精一杯なまま、あたしの意識は白くなった。
最初に気づいたのは上半身の圧迫感。その次に、髪を撫でる手の感覚。
目を開けてみれば、バカの胸の中にいた。
「起きた、か?」
心配そうにこちらを見るバカの顔をひっぱたいて、布団から体を起こす。
「今、何時?」
「まだ……子の刻のはずだ」
叩かれた額を手で抑えながら、バカも起きた。
まだ部屋に帰るのは早いな、なんて考えていたら、バカがなぜか私に向けて頭を下げていた。
「……?」
「すまなかった……疲れているというのに、無理をさせて」
「……は?」
「いや……それで、怒ったのではないのか? だから、今も叩いて」
この男は、どれだけ私に振り回されれば気がすむんだろう、と思った。
「怒ったわけじゃないわ。ただちょっと……気にくわなかっただけ」
あたしは気を失ったっていうのに、あんたは元気なんだもの。
「怒って、ないのか?」
「ないわよ。嫌ってもいないから、安心しなさいな」
ほっとした顔をするから、やっぱりいじめたくなってしまって。
「あんたに抱かれるのは嫌いだけど」
一度は晴れた顔が再び曇った。その過程は何度見ても面白い。
だけど、この男に抱かれるのが嫌いなのは、本当だ。
この男に抱かれたら、私は遊女でいられなくなる。快楽を与えられるだけのただの女に成り下がる。
だから、嫌い。
しょぼくれるバカの顔を両手で掴んだ。引き寄せて、口づける。
ただの女にはできないほど自分から舌を絡ませる。
唇を離せば、バカの顔は真っ赤だった。
耳まで赤くして、何事かとうろたえるバカに囁く。
「だから、今度は私があんたを抱いてあげる」
時間はまだあるんだから。
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