鏡音一家
「あ、お嬢!」
家の門をくぐると、舎弟たちが色の悪い顔をして飛び出してきた。
なんとなく予想がつきながらも聞いてみる。
「どうしたの?」
「若が」
それだけ聞いて、あたしはため息をつく。
「またぁ? こんどは何処と?」
答えにあがったのは聞き慣れた隣町の高校名。
「それもまたぁ? なんで?」
あたしの問いに舎弟たちは顔を見合わせて黙り込んだ。
「? まあいいや。部屋にいるんでしょ?」
疑問に思いながらも靴を脱いだ。
ふすまを開けると部屋の主から鋭い視線をとばされた。
そのへんの子供なら射殺せるじゃないかってくらいのを。
目が合うと、その視線は逃げるようになくなった。ばつが悪そうなその背中に、あたしはこっそり苦笑する。
あらためて見ると部屋の中はいろんなものが倒れたりひっくり返ったりしてぼろぼろだった。
「れーん……」
避難を込めて汚い服を着たままのその背中に声をかけると、うるせぇ、とぼそっと帰ってきた。
聞こえるようにため息をつき、あたしはレンの隣に腰を落とす。
「怪我は?」
「……してねぇ」
「そ」
あたしは何も言わず、彼の膝の上にあった無防備なレンの手を握った。
返り血と土ですこしだけ汚れたレンの手。
喧嘩をするのは困ったことだけど。
「とりあえず、着替えたら?」
「……ああ」
そのたびに来る二人だけの時間を、ちょっとだけ楽しみにしてるのは絶対秘密だ。
ぽちっとおしていただけたら光栄ですはくしゅ