足りなくて Ⅲ
とっさに彼女の肩を掴んだけれど、暖かく柔らかい感触に抵抗することを忘れた。
暗い部屋にくぐもった声だけが通る。
あたしの出してる声なのか、レンの出してる声なのかはわからないけど。
無抵抗なレンの唇をむさぼる。
……無抵抗、というか、全く動かないというか。
ぴくりとも動かないって、どういうこと?
手も、あたしの肩をつかんだままだし。
反応してほしくて、舌をさしいれた。
息をのむ音。
強ばる体。
あったかい舌。
体を引きはがされたのは、舌を一舐めした直後。
「自分のベッド戻りなよ」
静かに、顔を背けたままレンが言う。
「明日、早いでしょ」
暗くてレンの表情は見えないけれど。
聞こえてくるレンの声は淡々としてて。
あたしはそれが腹立たしくて。悲しくて。
お前なんかに欲情しない、と言われたようで。
力づくでもおとしてやる、と後先考えずに思ったのは、意地だったと思う。
「やめて、リン。リン!」
咥えた最初の頃こそ体をびくつかせていたが、時間がたつにつれてレンは普段とそう変わらない声であたしを止めだした。
「やめろってば!」
多少言葉が荒くなっても、レンはあたしを無理矢理ひきはがそうとしない。
レンの足の間にいるあたしの肩を掴む手にはそれほど力は入ってなくて、肩を押されながらあたしは行為を続ける。
「やめろって言ってるだろ! リン!」
レンにしては珍しく荒い言葉が出た。
言葉だけで、行動には反映されてないけれど。
本当に嫌なら、髪引っぱってでも首締めてでもして抵抗すればいいのに。
口の中から放したそれを上から下まで舐めあげる。
「こんなに大きくしてるくせにやめるの?」
じゅる、と音を立てて吸い上げたら、レンの体がびくついた。
「あ、これ好き?」
うれしくなって同じようなことを続ければ、レンの呼吸が荒くなっていって、あたしはさらに調子にのる。
「リ、ン……ほんと、やめて。ねえ。頼、むから、ホントに、リン」
やめてと言われたら、もっとやってやりたくなるもので。
「は……やめ、ろって、うあっ」
もっとその声を聞きたくて。
一所懸命、舌を這わす。
「やばいっ、てば、リン、り……っっ!」
口の中に入ってきたそれを飲み干し、あたしはそれから口を離した。
「にが……」
初めて経験したその味に、あたしは顔を歪める。
「だから、やめろって、言ったじゃん」
隣からとぎれとぎれの言葉が聞こえた。
「リンのばか、あほ」
ふと、不安にかられた。
おそるおそる手探りでレンに近づく。
「お、怒、った?」
嫌われるかもしれない、なんて考えてなくて、あたしはレンにすがりつく。
「……ちょっと」
どうしよう、と思っても、もうどうにも出来ない。
「レンが、レンが悪いんだから。レンがっ! あたしのこと……そういうふうに、見て、くれないから……だから、あたし」
「もういいから、ちょっと黙って」
黙るしかなかった。
レンもなにも言わなくて、部屋の中はしんとなる。
沈黙に耐えかねたころ、
「オレのこと好き?」
突然聞かれて、それがもうしゃべっていい、という合図だと気づくのに数秒かかった。
「好き」
「オレは、その百倍好きだよ」
まったく予想してない答えだった。
「なのに、こんなことされて。もう、プライドずたずたデスヨ?」
あたしは呆然と暗闇の中のレンシルエットを見つめる。
「リンが好きだからいろいろ我慢してたのに。全くもう」
キスをされた。
「もう、我慢しないからね」
痛いほど抱きしめられ、あたしはレンの腕の中で泣いた。
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はくしゅ
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