鏡音一家 弐
「若! お嬢! お気をつけて!」
いつもと同じ舎弟たちの見送り。
「行ってきまーすっ!」
そう言って手をふるリンも、いつもと同じ笑顔。
その笑顔を独り占めしたいと、沸き上がる衝動を理性で抑えるのも、いつもと同じ。
「ねえ、レン。初音家の人が来るのって今日だよね?」
「ああ」
「じゃ、今日は早く帰らなくちゃね」
「ああ」
いつもと同じ学ランとセーラー服。
いつもと同じ通学路。
その中に異分子が混じるのもいつもと同じで。
建物の影に見たことのある男たちを見つけ、オレは舌打ちをした。
うぜぇと思いながらオレは隣を歩くリンの細い腰に手を回し、見せつけるように引き寄せる。
「レン?」
不思議そうにオレを見、周囲を見たリンはああ、と納得した声をあげた。
「あれが昨日相手した人たち?」
答えずにいると、リンは肯定と受け取ったようだ。
「なんかこの頃多くない? まだたいした怪我してないからいいけど、大怪我する前になんとかして欲しいな」
仕方ねぇだろ。
あっちが先にちょっかいだそうとして来たんだから。
自分が狙われているなんて欠片も知らないリンはオレの腕の中で頬を膨らませている。
「レン聞いてる?」
「聞いてるよ」
と、隠れていた男たちが姿を消した。
反射的に緊張がはしり、リンの腰に回す手に力が入る。
「お前、一人でいるときは気をつけろよ」
「ん……ねぇ、レン」
「わかってるよ」
客が来るってわかってるのに、喧嘩を買うつもりはない。もちろん売るつもりも。
そこまでバカじゃねえよ、と言うとリンがにへらっと笑った。ばかみたいに無防備な笑顔。
「……授業終わったら迎えに行ってやるから、教室にいろ」
「うん。へへへ。待ってるね」
あまりに嬉しそうに笑うから、オレは見ていられなくなって顔を反らした。
鼻をくすぐるいい香りに、今更ながら手に汗がにじむ。体が熱くなる。
やばい。このままじゃ、ばれる。
離れなければと焦るのに、繋ぎ止めたその体を放す気にはなれなかった。
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はくしゅ
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