鏡音一家 肆
「うるせぇっ!」
低い怒鳴り声が部屋に響く。
同席していたいい大人たちが肩をびくつかせるのを、私は見逃さなかった。
「オレがやるっつってんだからやるんだよ! 文句あんのか!!!」
鋭い目で部屋を見回すレンに反論する者は、誰もいなかった。
「お疲れさま」
集会の後のレンの着替えを手伝うのは、私の仕事だ。
「これで、やっとうるさい鼠の駆除ができるわね」
脱いだ着物を掛けていれば、後ろからのびてきた二本の腕に抱きしめられた。
「ごめんな、もっと早くできればよかったんだけど」
耳元で発せられる、先ほどとは全く違う甘い声に、くすりと笑みがこぼれる。
「謝らなくてもいいわ。レンが悪いんじゃない。鼠が多すぎるのがいけないのよ」
そう。レンは悪くない。敵が多いこの世の中、大人たちに負けずによくやってくれてるのは確かだ。今日だって、半ば無理な案をよく通してくれた。
そのことを褒めようと、顔を動かしたら、不意に唇をふさがれた。
「ん……」
深いキスが呼吸を止める。
唇が解放され、酸素を求める間、うなじを唇がなぞる。
体に回された腕に力が込められた。
「リン」
切なさの籠もった声に、また笑みがこぼれた。
「いいよ、今日はがんばってくれたもの」
レンの腕をとり、力の緩んだ腕の中で体を回転させ、少し高い位置にある唇目指して背伸びをする。
「好きにしていいわよ」
そう言って、愛しい弟の唇を塞いだ。
PR