悪ノ召使
三年前、悔しさを噛み締めながら去った丘に、彼女は戻ってきた。
眼下に広がる街並みは、自分の記憶より生き生きして見える。
それがなにより腹立たしい。
ハッピーエンド? 笑わせる。
「お前も、そう思うでしょ?」
彼女は、反対側にある丘の上に立つ棒の先の白いそれに向かって微笑んだ。
「侵入者だぁ!」
慌てて鎧もつけずに、剣一本で向かってくる。
「ああああああっ!」
そいつらに対して剣を振るうたびに、この三年で傷だらけになった彼女の体は赤くしていった。
「姫! こちらです!」
残していた内通者の案内で、彼女は城の中を進んでいく。見飽きていたはずの城内は、自分がどこにいるのかわからないほど様変わりしていた。
「品位の欠片もないわね」
ぽつりともらしながら、彼女は勇敢にも向かってきた使用人を切り捨てた。
この三年でまめだらけになった手を血で染めていく。
この日を、どんなに待ち望んでいただろう。
赤い髪の女は、部屋で剣を構えて待っていた。
「……これは夢かしら。首を落とし、体を潰したはずの王女が剣を持って私の部屋に来るなんて」
「現実よ、ジョウオウサマ」
剣を構え、笑うと彼女は一気に攻め込んだ。剣と剣がぶつかり合う。
剣が押し合う中、女王の剣の激しい震えに、彼女は微笑んだ。
「この三年間、慣れない国の政で、大変だったんじゃないこと? ジョウオウサマ」
女王の顔が悔しそうに歪む。
「それこそ、剣を握る暇なんてなかったでしょうねっ!」
彼女が剣を振るった。
女王の絹の衣服が裂け、血が飛びでる。
「三年、使われなかったお前の剣と三年使い続けた私の剣なら、私のほうが上のようね」
床に膝まづいた女王の首に彼女は剣を当てた。
「仇よ」
血に染まりゆく城を部下に任せ、彼女は一人、そこにいた。
丘の上に立つ柱ともいえるその棒を力を込めて切ると、それはあっさり先から外れ、落ちてきた。
剣を捨て、落ちてきたそれを両手で受けとめる。
白骨化したそれは、雨風にさらされ、鳥に啄まれたせいか、穴があき、いびつなものになっていた。
彼女はそれをそっと撫でる。
「帰ってきたわ」
それまで毅然としていた彼女の顔が歪む。
「お帰りぐらい、言ったらどう?」
彼女の目から流れる涙は、頬を伝い、それに落ちていく。
「お前の体は、岩に潰されたと聞いたわ」
いとおしそうに、彼女はそれを抱いた。
「仕方ないから、助けてあげる。そしたら、ずっと一緒よ? 私たち」
歓声と悲鳴、蹄の音と剣の音。
「もう、二度と、私のそばから離れるのは許さないんだから」
彼女の耳には、届かなかった。
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
彼女の笑い声に、
銃声が、
重なった。
呆然と自分の体にあいた穴を見下ろす彼女に、青い髪をなびかせる彼は銃口を向けていた。
「君は、僕の愛しい人を二人も殺した。二人とも素晴らしい女性だったのに」
ゆっくり、彼は次の弾を重点する。
「すぐに、お前に会えそうね」
血の溢れる口で、彼女は笑う。
「ねぇ、レン」
空を見上げて、彼女は笑う。
「今日のおやつはな」
また一つ、銃声が響いた。
処刑された王女の首は、二度と暴君を出さないための教訓としてさらし首になってたんだよ、
というのがこの妄想のぶっとんだところ。 ぽちっとおしていただけたら光栄です
はくしゅ
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