スカーフごしの
「ねえ」
目の前に座る彼はいつになく低い声でそう言った。
「なんで、あんなやつについて行ったの?」
しみ出す怒りのオーラにあたしは何も言えずに俯きっぱなしだ。
「どうなるか、想像つかなかった?」
伸びてきた手に、思わず後ずさる。
「動くな」
命令調の声に、体が止まった。
額にレンの指先があたる。痛みを感じるほど、強い力で擦られた。
さっき、あの男に唇で触られたところ。
「それとも、わかってて行ったの? オレはもう捨てられたわけ?」
「違っ」
「じゃあなに」
反論しようと口を開いたが結局なんにも言えなくて唇を噛みしめたあたしは顔を伏せた。
「まあいいよ。言わなくても」
しゅる、という布の擦れる音に顔をあげると息を呑むほど冷たい笑顔のレンがいた。
「今からお仕置きするのは変わらないしね」
「ふ、ん゛んっ!」
あたしの声は口に巻かれたスカーフに吸収されて言葉になっていなかった。
スカーフをとろうとしても、両手首をきつく縛られた状態じゃうまく手を動かせなくて。
あたしはただ、レンの指に体を震わせるしかない。
「ん゛~!」
スカーフの下でもがいていると、レンが顔を近づけてきた。
「何か言いたそうだね、リン。つらい? やめてほしい?
でもやめてあげないよ」
レンがスカーフにキスをした。ちょうど、あたしの口があるところに。
スカーフごしのキスなんて悲しくて、涙が出てきた。
「どうしたの、リン。泣くほどオレが嫌いになった?」
ちがう、ちがう。
レンが好き。
こんなことされても、
ちゃんとしたキスをしてもらえないだけで泣いちゃうくらい、
レンが好き。
なのに。
スカーフごしじゃ、あたしはなにも言えなくて。
ネクタイで縛られた手じゃレンに抱きつくこともできなくて。
もうやだ。つらい。つらすぎる。
あたしは暴れ始めた。なんとかして口のスカーフをとりたくて、もがく。
「なにやってんのさ」
レンの低い声にも負けず力いっぱい引っ張ると、口からスカーフがずれた。
口の周りがすれて痛い。
「とっていいなんて言ってないだろ」
荒々しく伸びてきたレンの手に掴まれながらもあたしは叫んだ。
「キスして!」
レンの手が止まる。すごく変な顔をされたが気にしない。
あたしはレンの顔に向かって体を伸ばす。
「キスして。ちゃんと、唇に」
一秒も待たずに、あたしの望みはかなえられた。
「好き。レンが大好き」
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はくしゅ
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