眠りにつく時に Ⅴ
「どうして、あたしのこと避けてたの?」
ためらいつつ言われた言葉に、来た、と思った。
泣きじゃくるリンをなだめてから、どのくらい時間がたったのだろう。
暗闇に目もだいぶなれ、部屋に入るわずかな光の下、だいぶ周り見えるようになった。
膝の上にいるリンが見上げてきて、オレは思わず目をそらす。
落ち着け、落ち着け。
必死にそう唱え、体の脇に置いた拳を握りしめながら、正気を保つ。
本当は、理性がだいぶ削れている。今すぐ、何も知らない無知なこいつを膝の上からたたき落としてやりたい。
でも。
もうあんなふうに泣くリンは見たくなくて。
だから、必死に耐えている。
のに。
「ねえ、なんで?」
「……いろいろ、考えることがあったんだよ」
「考えることって?」
「いろいろだよ」
「いろいろってなに」
「だからいろいろ。もういいだろ」
「よくないの!」
ぎゅう、と首に回された腕に力が込められた。リンの顔が伏せられる。
「もう、やだよ」
泣きそうな声で言う。
首筋にかかる息も、背中をなぞる指先も、全部が理性を崩していくけれど、リンの言葉の意味が、崩れる理性を支える。
また泣かせてしまったか、と焦った時、リンが顔を上げた。
「だから、知りたいの」
間近で見つめ合う形になる。
無意識に顔が前に倒れた。
「あ゛ーっ!!」
すんでのところで上をむいて叫ぶ。
「無理……ホントむり! もう無理!」
「レン?」
「悪いけど、もう部屋帰って」
リンが息を呑んだ。服を握りしめられる。
「本当にもう限界なの。帰って」
頼むから、と言うと、リンが黙ったまま下を向いた。
数秒もしないうちに、足が濡れるのを感じた。
首をかしげかけ、はっとする。
「ちょ、リン!?」
顎をつかんで上を向かせ、頬に触れると手が濡れた。
「また、泣いて」
「レンは、やっぱりあたしのこと嫌い?」
その一言に、頭を抱えたくなった。
「そうじゃないけど」
「じゃあ、なんで帰れとか言うの」
ぽろぽろとリンは泣く。
「……泣きたいのは、オレのほうだって」
ため息を一つつき、リンの頬をぬぐう。
「もう限界なんだって」
「レンと一緒にいたいの」
体が固まった。息が詰まる。
そんなオレに気づかずに、リンは言葉を続ける。
「レンとずっと一緒にいたいの離れたくないの」
甘ったるい声が、言葉が、脳を揺らす。
「それくらいレンが好きなの」
「リン」
名前を呼ぶ。腕を掴んで、立ち上がらせた。
リンは素直に従う。
「後悔しても、遅いからね?」
「レン?」
オレは従順な彼女の手を引いた。
二人で落ちたのは、ベッドの上。
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はくしゅ
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