右と左の浮気事情
その光景を見た途端、あたしは固まってしまった。
「レ、ン?」
ベッドに腰かけるレンとレンに体を預ける見知らぬ女。
二人は、唇を離すと互いに微笑み合って。
あたしとは似ても似つかない、豊満な体。
あたしとは違う、長くて波打った金色の髪。
私を見た瞬間に、しまった、という顔になっていったレンの顔。
あたしはそこから脱兎の如く逃げ出した。
無我夢中で走り、とりあえず目についた部屋に駆け込んだ。
中から鍵をかけ、その場に座り込む。
「なんで、なんで」
なんで、レンが、私じゃない女の人と、キス、して、
「う゛ぇ゛…」
吐きこそしなかったものの、ひどい吐き気に体を支えきれなくなって床に倒れこんだ。
めまいがする。呼吸が苦しい。体が震える。
あんなの、見たくなかった。知りたくなかった。
あんな、柔らかい微笑み、私にはしなかった。
いつも、私との時は、眉を寄せて……
「大丈夫か?」
一瞬、カイ兄かと思った。でも、ぼやけた視界に映ったのは赤。
アカイト。
力の入らない体を起こし、ドアに体を預けながらドアノブを手探りで探すとその手が掴まれた。
「具合悪いんだろうが。動くんじゃねぇよ。捕ってくったりしねぇから」
そう言って額にペットボトルを押しつけられた。固い感触に顔をしかめたが、冷たい感触は気持ちよかった。
「落ち着いたか?」
ペットボトルがぬるくなるまで、アカイトは黙って隣にいてくれた。
「……ありがと」
「どーいたしまして」
いじわるくアカイトが笑う。こいつにお礼を言う日が来るなんて。
あたしは立ち上がり、部屋を出ていこうとドアノブを握った。
「一ヶ月だ」
アカイトの突然の言葉にあたしは振り返った。なんの話?
「あいつら。一ヶ月前からつるんでんだよ」
あいつら、という言葉にさっきの二人が頭に浮かんだ。再びアカイトに背を向ける。
「もう十回ぐらいはやったんじゃねぇの?」
楽しそうに言うアカイトに腹がたつ一方、事実ならどうしようと悩む自分がいる。
「で、どーすんの、これから」
どう、するんだろう。あたし。
「……別に、どうも」
数分悩んで出た答えが、それだった。はっ、とアカイトが笑う。
「なに、彼氏に浮気されてほっとくの。お前そんなんだったら浮気され続けるぞ」
でも、じゃあどうしろって言うのよ。
喉まででかかった反論は、口先でつっかえて音にならなかった。
「お前も、浮気し返せばいいんだよ。そしたら、独占欲の強いあっちは自分の浮気なんてしてる場合じゃなくなるぜ」
この言葉に納得してしまった時点で、あたしは既に壊れていたんだろう。
「ってことで、オレと浮気してみねぇ? リン」
ばっかじゃない、といつもならはねのける提案なのに。
「する」
こうして、あたしとあいつの浮気が始まった。
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はくしゅ
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