右と左の浮気事情 Ⅱ
あたしの頬に音をたててキスをして、アカイトはいじわるく笑った。
「じゃ、明日もここ来いよ」
ミク姉に引きずられて行った夕食の席にレンはいなかった。
「ごちそう、さま」
箸を置くと、ええ!? っと、目の前に座っていたカイト兄に叫ばれた。
「ぜんぜん食べてないのに!?」
「食欲……なくて」
食欲ないのもホントだけど、こんなに早くごちそうさまをしたのは、早く部屋に帰りたいからだ。
今、あたしの隣の席は空いている。
もし、レンが来たら、と思うと、ご飯なんて喉を通らなかった。
「ごめんね、メイコ姉」
怒られる前に、あたしはリビングから逃げた。
向かいの扉が動かないことを確かめてあたしは自分の部屋に駆け込んだ。
ここに来るまで、レンの姿は見てなかった。
「レンとはあんま話さないほうがいいぜ」
去り間際のアカイトの忠告。
レンと顔さえ合わせないんだから、話すもなにもない。
まだ、あの女と一緒にいるんだろうか。
そう考えると、息が苦しくなる。
胃がひっくり返りそうになるが、中に大したものは入っていないから大丈夫だろう。
ご飯食べに来なかったけど、レンはあの女とご飯食べたのかな……
考えたら、また呼吸がつらくなった。
浮気……なんで? レンが。
あたし、だめな女だった? レンに満足されてなかった?
レン、あたしのこと嫌いになった?
頭の中がぐるぐると周り、涙が出てきた。
寝よう……
パジャマに着替えることもせず、あたしはベッドに倒れこんだ。
そのまま、目を閉じる。
もうなにも考えたくなかった。
次の日、部屋から出ず、食事にも行かずにベッドに横たわっていると、メールがきた。
「昨日の部屋に今すぐ来い」
差出人は見なくてもわかる。アカイトだ。
「……めんどくさい」
呟きながら体を起こした。
ふらつきながら、扉に向かう。
扉を開ける時あたしは前を向いていなかった。
視線を足元に落としながら、手探りでドアノブをつかみ、押していた。
「っ!」
息を飲む音。
視線を上げた先にいたのは、眉をよせて、困りきった顔をした、レン。
なにも言えなかった。
なにも言えなくて、あたしはそこから逃げ出した。
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はくしゅ
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