こちらに背を向けて床に座り込み、一目を憚らずべたべたくっつきあう鏡音妹弟に僕は拳を握りしめた。
僕たちだって、ああやって、いつでもどこでも共にいられたら、どんなに、
「お姉ちゃん! マスターがリンゴくれたよ!」
突然部屋に飛び込んできた声に、心臓がとびはねた。
冷静を装って入口を見れば、僕と同じ顔をした愛しい人がそこにいた。
こちらを見て固まっている彼女に、僕は笑いかける。
「久しぶりだね」
「え?」
眉を寄せた彼女は途中ではっと気づいて作り笑いをした。
「そう、だね。うん。久しぶり」
そう。僕たちが最後に会ったのは一ヶ月前、ロリメイコの誕生会だ。
四日前、僕とミクが会っていたことは誰かに知られてはいけない。
「どう、したの? 誰に、用?」
ためらいがちにミクが近づいてくる。
抱きしめたい衝動を抑えながら、微笑んだ。
「夕食に、って思って鍋作ったら、目を離した隙にアカイトの馬鹿が大量のキムチを入れてね。
ロリメイコも僕も絶対食べれない辛さのものができちゃって。
鍋にあるもの全部いれちゃったから、新しくなにか作るには材料少なすぎて。
それで、なにか貰おうと思ってこっち来たんだよ」
約二名のじとーっとした視線を無視しながら話すと、じゃあ、とミクが持っていた袋の中から林檎を二つ取り出した。両手で差し出す。
「これも持って行って」
「いいの?」
「うん。そっちにお裾分けしようって思ってたし」
横からぎゃあわあ! という声が聞こえてきた。
全く、うるさくてムードのかけらもなくて、こっそりため息をつきつつ、林檎をもらうために手を伸ばした。
そして、指先の違いに気づいた。
「綺麗な色だね」
林檎に手をかけながら、その爪先に触れた。
「……そう、かな」
「うん。いいと思う」
指のラインをなぞるとミクに指にを掴まれた。
お互い、繋いだ指を見つめたまま顔は上げない。
ここで、キスの一つでもできたらどんなに幸せだろう。
「ミクオ~おかずできたわよー?」
「ありがとう」
林檎を受け取り、僕は居間に入ってきたメイコに近づき、おかずの入れられたタッパーを受け取った。
「ここで食べていけばいいのに」
「そういうわけにはいかない」
ミクと二人きりならまだしも、他にだれかがいるところで、ミクと一緒にいたら、僕はきっと暴走する。
今だって、必死に我慢しているんだ。
「それじゃ」
「アカイトのバカに、一回死ね、って言っておいて」
メイコが意地悪い笑顔でそう言った。
「わかった」
「まったね~」
「もう来んな~」
背を向けられたまま、そう言われ、僕は小さく呟く。
「会わずにすむなら、僕も君たちには会いたくないよ」
「おやすみなさい、クオ」
悲しそうな、困ったような顔で、ミクが言った。
「またね、ミク」
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はくしゅ
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