近づいてくるキミ
「待っ、て」
「どうして」
彼はそう言って首をかしげた。いつも通りの顔色で心底不思議そうな顔をして。
私の顔は、きっと真っ赤なのに。
「だって」
私たちがいるところは居間で、
みんながいつもくつろいでいるところで、
今は、たしかに私たち二人きりだけだけど。
「こんな、とこで」
「じゃあ、移動すればいい?」
不意にまた、無表情な彼の顔が近づいてきて私は息を呑んで顔をそらした。
「そうじゃ、なくて……」
「……どうすればいい?」
頬に手が添えられた。
体がこわばる。
「あ、の」
「ミク」
心がはねた。名前を呼ばれただけなのに。
「好きだ」
触れられた頬が、火がついたように熱い。
少しずつ、彼の顔が近づいてくる。
「え、まっ」
「ミク」
名前を呼ばれて、私の体は今度こそ固まってしまった。
どうしようかぐるぐるしているうちに、彼の顔が近づいてくる。
あと五センチ、
四センチ、
三センチ
「クオっ」
一センチ
「たっだいま~」
気づいた時には両手を前に突き出した。
派手な音を立てて彼が床に転がる。
「おお、おかえり~れ、んしゅう、どうだった?」
倒れた彼をそのままに、慌てて玄関に向かった。
床に倒れていた彼は、むくりと起き上がり、一言呟いた。
「痛い」
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はくしゅ
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