枯れ落ち葉の紅の色 壱
「義父上、母上に怒られてもしりませんよ」
「なにを怒る。花魁を揚げるのは店の裕福さをアピールするためでもあるんだ」
はっは、と陽気に笑いながら歩を進める義父の後ろをため息をつきつつ歩く。
義父に連れられて向かうは吉原。
吉原遊郭である。
私は、遊女というものがあまり好きではない。
遠くから見たことしかないが、確かに美しい女たちだと思う。
だが、それだけだ。
金をつんで一晩を共に過ごすなど、阿呆らしい。
「義父上……やはりやめませんか。私にはどうしても金の無駄遣いだとしか」
「なにを言う。遊郭はすぐそこだ、ほら行くぞ」
気の進まない私のことなど全く気にせずに義父が進むものだから、私も後をついていくしかなかった。
義父は既に常連らしく、店に入るとすぐにいい着物を来た中年の女が走りよって来た。
義父と二言三言言葉を交わした後、女が先導して歩く。
廊下を歩いていると目につく調度品の質の良さに、へぇ、と思った。
ただ酒を飲んで女を侍らせるだけの低俗なところ、じゃないようだ。
通された部屋にもセンスの良く職人の技術の高さを感じさせる物がたくさんあって、目を見張っていれば、義父が笑った。
「なかなかなところだろう、ここは」
「そう、ですね……少し、見直しました」
座れ、と言われて腰を落とした座布団も、いい布に細かい刺繍が施してある。
少々派手な気もするが。
と、義父が下座に座っていることに気づいた。
「義父上、なぜ下座に?」
「そういうしきたりなんだよ。今日、私たちは花魁の客にふさわしいか見定められる。今回は顔合わせだけ。花魁をあげるには後2回は通わないといけない」
にや、と義父は笑う。
「花魁を揚げるにはしきたりと苦労があるのさ」
「……あと、大量の金がかかるのも忘れないでください」
ため息をつきながら義父に釘をさす。
さっき義父が懐から包みを出して、それを女に渡していた。
あの大きさはきっと……
考えるのが恐ろしい。
そんな私の調子は、
彼女が現れることで、一気に崩れた。
「鈴音にございます」
空色の瞳に吸い寄せられた。
橙の髪に絡めとられた。
赤い唇に魂をぬかれた。
大きな商家に養子として引き取られた私は、欲しいものは全てなんの苦労もなく、すぐに手に入った。
ただ、見つめるだけというのが、これほどつらいものとは。
その夜、
彼女とは一言も口を聞かなかったのに、
「義父上、次はいつ、彼女に会えますか」
私は、彼女の虜になっていた。
PR