枯れ落ち葉の紅の色 参
その日、通された部屋は今までに比べるとずいぶん小さい座敷だった。
衝立の向こうには寝具まであって、座敷というよりまるで寝所だ。
私一人、義父とは違う部屋に通されたことが、たまらなく不安で、いい年をして迷子になった気分だ。
もし彼女に会えなかったら。彼女に会うために来たのに。
なにかの間違いではないかと思いつつも、部屋を出ていく気分にもなれず、私は上座に置かれた座布団に座っているしかなかった。
襖が開かれたのは突然。
「鈴音にございます」
にっこり笑う彼女がいた。
「のまないんですの?」
そう言われて、慌てて盃の酒を口に運んだ。
くすくす、と彼女は笑う。
「緊張してます? 体がちがちじゃないですか」
つう、っと指が一本、首筋から肩まで滑った。びくりと体を震わせるといっそう楽しそうに彼女が笑う。
「鏡屋の若旦那はずいぶんうぶなこと」
三日月型の赤い唇。
「そんなんじゃ、夜までもちませんよ?」
まぶしい白い肌。
「……夢じゃ、ないんだな」
隣に、体温を感じる距離に、彼女がいる。
「夢にしたい?」
細い指が空いた盃に徳利をあてがう。
酒が注がれる前に、盃をに置いた。目を丸くする彼女の白い頬に手を伸ばす。
女だからか、遊女だからかはわからないが、彼女の肌は自分のそれよりずっと柔らかい。
感触を堪能しながらゆっくりゆっくり手を下ろしていく。
その手を、白い指がするりとつかんだ。
「もっとお話しましょうよ。お酒だってまだ、こんなに」
その時、彼女がまだ徳利を持ったままだということに気づいた。
彼女の手を握ると同時に細い体を押し倒した。徳利が床に転がる。
「っ、高いお酒なの、に」
そう呟くのを、布すれの音の間に聞いた。
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