枯れ落ち葉の紅の色 陸
空がもう白み始めていた。
鳥たちの声が静かな湯殿に木霊する。
こんな時間に湯殿に来たのは久しぶり。
新造のころは疲れて客と一緒に寝ちゃって、
日が昇ってから慌てて座敷出てたっけ。
まあ、今日もそうなんだけど。
「ああ、もう!」
桶いっぱいのお湯を頭からかぶる。
しっかりしなさい私!
あんな男のこと、今すぐ忘れる!
あたしは、
あたしは、
「花街で一番いい女なんだから」
もっとゆっくりお湯につかっていたかったけど、
早くしないと新造たちが集まってくる時間になるから、
早々にお湯からあがった。
店が少し騒がしくなってきたのを感じながら、支度を調える。
着物を着て、髪を束ねて。
最後に見た鏡で、それを見つけた。
「なっ……」
言葉が出なかった。
なんで、いつの間に。
恐る恐るそれに触れる。
紅がまちがってついていた、なんてことはやっぱりなくて。
首の付け根に咲いた、赤い花。
誰かに見られたかが気になるけれど、
座敷からここに来るまで、束ねた髪を前に流していた。
無意識に首が隠れる形で。
新造たちもなにも言ってこなかった。
湯殿はずっと一人だった。
大丈夫、誰にも見られてない。
痕を残した客は罰金、残された遊女は……
拳を握りしめて吐き捨てた。
「あの、クソ男!」
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