枯れ落ち葉の紅の色 肆
鳥が鳴いてる。
温い布団の中で思った。
帰らなきゃ。
体にからみついていた腕はもう力が入ってない。
起こさないよう静かに布団を抜け出した。
うち太ももの違和感に気が沈む。
いったい何度出されたのか。女の扱いを少しも知らない抱き方だった。
なのに、何も出来ず一晩中流されたのが、現実。
いつもこちらが手綱をとってやるのに。
完全に翻弄された。
最初から最後まで。大して上手くもない、童貞男に。
早く。
早く帰って、寝直したい。
湯船につかれば、きっと戻れる。
花街で一番いい女に。
「もう行くのか」
心臓が止まるかと思った。
黄金色の髪の男が、空色の目をこちらに向けていた。
「……夢は、さめるものでしょう」
心臓の音がうるさい。
早く、早く帰りたい、と心がせき立てる。
立ち上がろうとしたところで、髪が後ろにひかれた。
「名前を」
床から伸びた手の指にほどけたのを束ねただけの髪がからみついている。
「名前を、教えてくれ」
今更?、と思った。
「鈴音」
「違う、それじゃない」
はっと気づいたところで、自然に笑みがこぼれた。
髪を解きとり、立ち上がって、
いつもの調子で、手慣れた言葉を一つ。
「それを知りたいなら、またいらっしゃいなさいな、若旦那」
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